第1話 すっぱい葡萄|魔法のジャム

私は、10年近く前のある秋の日、最高に美味しいジャムを偶然作ってしまいました。
それはそれは素敵なジャムで、私が今まで食べたジャムの中で最高に美味しいジャムでした。

ある日、庭に葡萄を植えたいなと、父が巨峰の苗を買ってきました。
当時、まだ幼かった私の妹や巨峰が好きな父はとても楽しみにしていました。が、実がなってみるとびっくり!!いつまでたっても紫にはならず緑のまま、大きさもとても巨峰ではありませんでした。

それがこの地方でよく植えられるナイアガラだとわかった時は、楽しみにしていた分とてもがっかりしました。

しかも、すっぱい!!もう食べられるのかなと、つまんでは、そのすっぱさに驚いているうちに、過熟になってゆき、とうとう食べられなくなってしまうというものでした。今思えば当然の事で、肥料もやらず、土も痩せていて、しかも、冬は土が深く凍結してしまうような場所に植えていたのですから。

ところが、ある年に10mほどのびた、2本のナイヤガラがとてもきれいなエメラルドグリーンの実をたくさんつけました。このままでは、また食べられなくなると考えて、ジャムを作ろうと思い立ちました。
何日かジャムのレシピを調べて、ジャム化の仕組みについて書いてあるものを見つけました。
ジャムは、フルーツの中のペクチンが“一定以上の糖と、phが2.9~3.4程度の状態”で、作る特殊な、ゼリー状の現象。
ペクチン?なんだかよくわかりません。
そこで、もっと調べてみたら、面白いことが書いてある本をみつけました。

あまり熟していない、若い果実の中では、ペクチンは、細胞壁の材料のセルロースと結びついており水に溶けない形になっていて、これをプロペクチンと言う。更に、実が熟してゆくとプロペクチンが、水溶性のペクチンに変化していくんだそうです。なるほど、つまり熟してないと、ジャムに向かないということかなぁ?きっと、ジャムを作る人は売れ残りのフルーツで作ったりできるから、安いんだ!なるほど!

ですが、読み進めてみると・・・さらに熟すと、水溶性ペクチンはペクチン酸に変化します。ペクチンやプロペクチンは、ゼリー化するのですが、ペクチン酸はゼリー化しないので、一般的には過熟なものよりも、やや未熟な果実のほうがジャムに適しています。
ええっ!熟しすぎてもだめ、だったら急がないと!!

と、ジャムのレシピを見ながらナイアガラを煮詰めていきました。
なんて良い香りがするのでしょう。今まですっぱいだけだと思っていたナイアガラが、なんだかとってもおいしそう。妹も興味津々で見ています。
こうなると家族全員でジャム作り。

隠し味に父が愛飲していた、CAMUS NAPOLEON EXTRA というブランデーを加えそろそろいい感じ。
さっきまで鍋の中にたくさんあった葡萄が、ずいぶんと少なくなりました。
すると混ぜていた手ごたえが急に重くなり、いかにもジャムって感じです。
まずは、そのまま一口なめてみると、おいしい!!とってもおいしい!!あんなにすっぱかった葡萄がこんなに美味しいジャムになるなんて、口の中に広がる、芳醇な香り、採れたてのフルーティーな味わい。

今まで自分が食べてきたジャムの中で間違いなく一番でした。

妹も大喜び!!ヨーグルトやパンをもってきてはつけて食べ、みんな夢中。
でも、明日になったらもっとおいしくなっているかも知れないよと、父が言ったので、1ビン分だけ残しておくことにしました。

さて、本当に美味しくなるんでしょうか。

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